2011年9月26日月曜日

NHKスペシャル クニ子おばばと不思議の森

昨日(9/25)のNHK総合テレビで、NHKスペシャル『クニ子おばばと不思議の森』というドギュメンタリー番組が放映された。
宮崎県の山奥、椎葉村の美しい自然映像とともに、焼き畑を中心とした山の生活が紹介された。
その中には、われわれがとうに忘れ去ってしまった素晴らしい生活の知恵で今もなお生活している老人の姿があった。
一見すると不便に見える生活ではあるが、豊穣で深い精神文化にたいへん感動した。
素晴らしい番組だった。
内容を簡単に紹介する。


宮崎県椎葉村。平家の落人が住み着いたと言われる九州の中央山間部。
その山奥に、今も夏になると山に火を放ち焼き畑を作る「おばば」椎葉クニ子さんが暮らしている。
毎年焼く場所を変えながら少しずつ畑を作り、4年収穫したら放置して森に返す。
そして30年周期で山全体を一巡する。


それは森の豊かさを保つ昔からの営みであり、かつては誰もが知っていた。
焼く場所に育つ木々は、年老いる前に切られ、焼かれる。
その切り株からはすぐに新たな芽が出た、新たな循環が始まる。
人が森を焼き「かく乱」することで、森は若返るのである。
そこで育てる作物だけでなく、山菜やきのこなどさまざまな恵みを生み出す。


かつては日本中が森を再生するための焼き畑を行っていたが、今もそれを続けているのは椎葉クニ子さんただ一人だ。
この山で暮らすため、クニ子おばばは山の神に祈りを捧げて火を放ち、その恵みを日々の糧としている。
おばばは森のことなら何でも知っている。
天候のこと、動植物のこと、土のこと、山の神様のこと。
おばばは木の声なき声さえ感じ取れる。
そして、草木や、土の中の生き物たちと同じように、人間が自然の循環の一部となって暮らしている。
縄文以来続けられてきた焼き畑の営みに込められた日本人の知恵がここには詰まっている。


         

椎葉村の映像を見ているだけでも、そこで暮らし農業を営む厳しさは想像できる。
平坦地がなく、すべて山の斜面を利用した生活だ。
生活のすべてが自然の営みに組み込まれている。
山の守り神に感謝しつつ、自然を利用し、そこで生かされている。
このクニ子おばばは、ここに60年暮らす。

いまの現代人が便利さ・快適さの追求とともに捨て去ってしまった生活、忘れ去った知恵がここにはある。
レジャーで山に入るものでもなく、趣味で田舎暮らしをしているようなものでもなく、それは生半可な気持ちではまったく通用しない厳しいものだ。

この生活の原型は明治大正期あたりまでは、全国農山村の一般的な生活スタイルであり、知恵であったはずだ。
今もそのスタイルを維持し、知恵で生活を成り立たせていることに驚く。
だからこそ彼女の口から語られる静かな言葉には非常に重みがある。

『人は森を生かす。森は人を生かす。森が死ねば人も死ぬ』
『森を流れる時間と一緒に世渡り(=生活)している』
『太陽・月・先祖・山の神に、ずっと感謝している』

         

常陸大宮市東野地区は、椎葉村ほど険しい山間部ではなく、すべての生活はかの地よりはずっと容易である。厳しさはない。
この地でもできるかぎり昔の良き伝統や技術を継承したいと思っているが、なかなか難しい。
この椎葉村の映像を見ながら、あらためて残すべき技術、伝えるべき伝統を守りたいと感じた。
経済合理性だけが行動の原則ではなく、もっと豊かな精神の昂揚を目指して。

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