そしてその地下に『農文協・農業書センター』という農業専門の本屋がある。奥まった場所であり、なかなか人目には付き難い。大手町あたりに勤務する人でもご存知の方は少ないと思われる。
ここは農業の専門書、食・環境の図書、実に13,000点36,000冊の在庫を抱える堂々とした本屋、である。農業関連書籍の数は日本最大級であろう。
時折、ここをのぞく。
一般書店ではまず置くことがないであろう農業関係の本が、ここではほぼ手に入る。
書店経営を考えれば、在庫のリスクはかなり高いと思われる。
年に1冊売れるかどうかわからない専門書の類もきちんと揃っている。月刊誌(現代農業など)のバックナンバーも揃っており、実にありがたい。
JAとしての責務でもあるのだろうか、それともJAの本丸としての矜持なのであろうか、このような滅多と売れない本でも、農業関係者で必要とする人がいる以上置いておくんだ、という拘りをも感じさせる。
そんな本屋で、偶然手に取った『山で暮らす愉しみと基本の技術』なる本がある。
やや値段が張るため購入を躊躇したが、結局購入した。
著者である大内正伸氏が群馬県の山里で実践している生活の知恵をまとめた、いわゆるノウハウ本である。
山の木の伐り方、使い方、石垣の仕組みと補修の仕方、山の水の引き方、小屋の建て方、薪炭火の技術、囲炉裏の再生・・・など。
昔から伝承されたワザを新しい感性で訊ね深めた山暮らしの基本技術を、詳細なイラストと写真で紹介している。
大内氏が巻頭で記している。
『実際に山暮らしを始めてみると、ついつい手軽な材料や、便利な道具に振り回されがちです。私たちに自然(素材)を相手にする根源的な技術がなく、また山という環境の洞察や土木的な視点に欠けていることに気づく』。
またこの本で紹介されている諸々の技術を『具現できる最後の山村世代が、日本では70~80代の老人になっている』という現実と、かつては当たり前であった技術が20世紀になって、古いもの・非効率なもの・遅れているものとして忘れ去られようとしていることを危惧しておられる。
豊かな恵みを与え続けてきてくれた山を、私たちの世代でなくしてしまってよいのであろうか、という強い問いかけでもある。
採る・育てる・活かす・楽しむ・・『山の恵みを使いながら山を守ってきた』農家の暮らしの知恵が満載、との紹介文に惹かれ購入し、貪り読んだ。
まさに、このファームで実践しようとしていることが丁寧に解説してある。
恥ずかしながら、この本で得たはじめての知識も数多くある。
里山整備の一環で数多くの杉やヒノキを切り倒しているが、残念ながら燃料用の薪にする以外に用途が見つからず惜しいと思いつついた。
製材所で製材すればそれなりに利用価値はあるであろう綺麗な丸太である。
が、そのための運搬なり手間を考えれば、とても現実的ではない。第一、製材所が思い当たらない。それに、コストパフォーマンスが悪すぎる。
この本の中で紹介されている『丸太から材をとる』の項で、目からうろこが落ちた。
なんとクサビを使って丸太を割り、そこから板をとる方法が紹介されている。
これが出来れば丸太の用途が一気に広がる。
綺麗な板にする必要などなく、凸凹でも曲がっていても良いではないか、どうせ自家用なのだから。
さっそく実践してみることにした。
とりあえず(労力・時間・問題点の検証のため)テストケースとして、今年1月に伐採して乾燥させてあった杉の丸太2本を加工することにした。
長さ185cm径20cmのものと、長さ118cm径26cmのものである。
要領はとても簡単である。
木目の中心に軸を取ってクサビを切り口に打ち込み、このクサビで出来た割れ目に次々と次のクサビを打ち込んで行って半分にするというもの。
185cmの丸太は8箇所クサビを打ち込むことで、綺麗に半分に割れた。
所要時間も15分ほど。
同じようにして、118cmも半分に。
金属製のクサビを割れ目に順番に打ち込んでゆく |
綺麗に繊維に沿って割れた |
118cmも割れた やや芯を外れてしまった |
この半分に割った丸太から板を作り出す。
割り面の反対側、つまり外皮側に20cm間隔でノコで切れ目を入れ、クサビを入れつつ順に割って(剥がして)平面を作ってゆく。
とにもかくにも、満足に揃っていない道具で、悪戦苦闘しながら、なんとかテーブル(らしきもの)を作り上げた。所要時間は約6時間。
厚さも平面も決して満足できるものではないが、製材された材木で作ったならば得られない充実感がある。
単に板を一枚作り出すという作業、つまり板を平面に整えるということが、直線に切るということが、どれほど大変なことなのか思い知った作業であった。
大昔の建物、たとえば1000年以上前の法隆寺や薬師寺の東塔などはいったいどのような道具で、どれだけの時間と労力で作られたのであろうか。気が遠くなるような気がする。
鉈(ナタ)で仕上げた面は波打つ面が美しい。 木目も鮮やか。杉の芳しい香りが漂う。 |
脚は切り出した丸太をそのまま利用 手抜きではあるが野趣あふれる意匠だ |
☆ツバメの営巣 3日目
巣が少しずつ形になってきた 2羽が休むことなく離発着している |
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