2014年5月14日水曜日

神々と出逢う 〜 本物のオーラ

常陸太田市の太田一高はわが母校である。
今も諳んじることができるその校歌は格調高い詞と調べである。
Youtube =  太田一高校歌(メロディーのみ)

城の名に負う青龍の 
御空にかける意気あらば 
学芸の山高くとも 
功績(いさお)の桂折られなむ  (1番) 

この校歌の作詞者は武島羽衣という国文学者で、滝廉太郎作曲のあの名曲『春のうららの隅田川~♪』の『花』の作詞者である。
七五調の勇ましくもキレイな調べで、常陸太田の誇るべき歴史背景や地勢的特徴などを巧みに折り込みつつ、難しい漢語調の言葉で斯くあるべしという学びの徒の崇高な姿を示している。実際には6番まであるが5番までが歌われる(6番は歌詞内容が作られた時代背景を投影し過ぎていて今の時代にはアンマッチなのだろう)。
卒業して既に40年ほど経つが、未だ『功績の桂』は折れていないし、今後もその見込みもないのがなんとも哀しい。『学芸の山』に登ることはもちろん、山に踏み入ることさえ回避することばかり考えて生きてきた我が身である。
(注 : 桂を折る=古代中国で官吏登用試験に合格すること)

この校歌にある城というのは他でもない、佐竹氏代々が400年以上居城した『太田城』のことである。関東七名城の一つだ。別名を『舞鶴城』とも『青龍城』とも言う。

舞鶴城と呼ばれる謂れはいろいろなところに記されているが、青龍城とよばれる謂れは見つけられなかった。不明である。
ついでながら個人的感想だが、常陸太田市民は『青龍』と『鯨岡』という言葉に特別な思いがあるようで好んでネーミングに使う傾向にあると思う。誇りとはそういうものだろう。

在学当時は『青龍』が何を意味しているのかなどは、全く興味もなく知る由もなかったのだが、ずいぶん経ってから学んだ。むろん『功績の桂折られなむ』も同じだ。
青龍
陰陽五行説に基づく東西南北を守る神、守護神獣の一つであること。
各々に方角・季節・色の意味を持たせているということ。
      姿             ----方角--季節----色
■玄武  蛇の絡み付いた亀  ----北----冬----黒
■青龍  龍             ----東----春----青
■朱雀   鳳凰状の鳥            ----南----夏----赤
■白虎   虎                          ----西----秋----白
そういえばいろんな場面・ものでこの四神にちなむ名前が見受けられる。
幕末会津の白虎隊しかり、平城宮の朱雀門しかり、北原白秋しかり。
青春という言葉もそう。夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代を人生の春にたとえたもので、春の色は青なのである。

昭和48年の高松塚古墳、昭和58年のキトラ古墳で、壁画が発見されたとき、この四神が描かれてることが分かりその存在がクローズアップされたのは記憶に新しい。
         
いま、上野の東京国立博物館でキトラ古墳の壁画の特別展をやっている。壁画修復の途中の特別展で、おそらく明日香村以外で公開されるのは最初で最後であろうとのこと。
さらに『栄西と建仁寺』展も開かれており、国宝『風神雷神図屏風』が出展されているという。
上野の森に国宝級の神々が集っている。
これら本物が見られるのはまたとない機会で、しがない歴史好きではあるがここは出かけねばなるまい。田植え後の気分転換でもある。
さっそく出かけた。
         
やはりというか、メインの展示物のコーナーだけに(だけは)人だかりだ。人気がある。
今回も長蛇の列に並び、いざ順番が回ってきても立ち止まると係員にすぐに注意され、ゆっくり鑑賞できない。係員の注意ばかりが響く。
しかし何もアナウンスがないと収拾がつかずもっとひどい状況になるのは確か。鑑賞どころではないはず。致し方あるまい。と納得して20分待って3分間の対面だった。

残念ながら、キトラ古墳壁画の四神のうち『青龍』だけは修理作業の関係で出展されていなかったが、朱雀・白虎・玄武を間近で見ることができた。
どれほど精彩な写真であっても到底敵わない素晴らしい輝きがあるものばかりだ。感動ものである。一昨年夏に見に行ったフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』でも同じであった。本当に良い本物からは強烈なオーラが発せられている。

そしてこれらは思ったよりずっとずっと小さい壁画である。
漆喰に描かれた絵だけだと思っていたが、鋭い彫り込みもある。顔を近づけて間近で角度をいろいろ変えて眺められたからこそ見られたもので、得られた感動である。
1300年もの昔に奈良の山中の墓に描かれたものが、このような形で人々の目に触れるとはなんとも不思議である。
         
宗達・光琳の風神雷神の屏風画という双璧を同時公開しているのもうれしい。
本館内の案内掲示板
館内の写真撮影はほとんどの部分で禁止だが、このホール部分の看板はOK
上 :  東京国立博物館所蔵の尾形光琳による風神雷神図屏風(重文 18世紀)。
下 :  建仁寺の俵屋宗達による風神雷神図屏風(国宝 17世紀)。

これらの神々も想像していたよりは大きくない図なのであるが、不思議と大きく迫ってくる感じがある。本物ゆえの力であろう。
簡単便利、即席、ITもの、軽薄なモノが跋扈し、当たり前となっている昨今である。
歴史の評価に耐えてきた本物の持つ凄み(本物が発するオーラと言ってもいい)を目の当たりにすると、それだけで心が豊かになれ(そうであ)る。
         
リッチなひと時を上野の森で過ごしたあと、いつものパターンで大手町のJAビル地下にある農業専門の本屋へ立ち寄った。
一般書店では絶対にお目にかかれない専門書や、ミツバチやらブルーベリーやらの関係書を手に取って眺めた(見ただけ。高いので買わない)。

いつも使う脳の部分と違う場所がやたらと刺激された一日であった。
とにもかくにもこれらの展示期間に間に合ってよかった。。

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