2022年9月15日木曜日

二日酔いに葛の花 ~ 救民妙薬

「救民妙薬」(きゅうみんみょうやく)をご存じだろうか(…偉そうに書いているが小生もつい最近知った)。標語やことわざのような四文字熟語だが、これは昔の本の名前だ。そして茨城と非常にゆかりの深い本でもある。この本は発刊された当時、世相にマッチしたこともあって広く人々に受け入れられ、以降長い間重用されてきた。著者は「鈴木宗與」というお医者さま。鈴木さんはある方から指示を受けてこの本を編纂した。 

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ある方というのは水戸藩二代藩主である徳川光圀。鈴木宗與とは水戸藩の侍医だ。藩主を退き西山荘に隠居した光圀は鈴木宗與に命じてこの本を作らせた。光圀は、病気になっても医者にかかれずただ寝ているだけの領民がいることを心配し、身近で入手しやすい薬を教えて領民たちを救いたいという強い思いから、薬草の処方を紹介した家庭療法集を作らせたのである。天下の副将軍、為政者としての立派な行動だ。

国会図書館提供のデジタルコレクション「救民妙薬」

この本は手に取りやすいコンパクトなハンディサイズで、397の薬草の処方、旅に携帯すべき薬などが紹介されている。水戸藩内のみならず藩外の人々にも読まれ、何度も改訂されたりしつつ版を重ね、明治・大正時代には活字本となって、病気の人たちの助けとなったという。

水戸の植物園公園では救民妙薬の植物のうちいくつかが栽培されており、HPに写真付きで紹介されている。水戸市植物園公園HP 水戸藩と薬草

現代の視点からみるとちょっと????なところもある内容だが、今日でも参考になる内容だと思う。まして昔は病を得ると神仏に祈るしかなかったのだから、人々はすがる思いで手にしたことだろう。科学的・医学的知識が乏しい時代における伝統的漢方薬や民間療法知識のエッセンスを、(一般大衆よりは)医学的知見のある藩医がまとめた普及版という位置づけなのかもしれない。

古来より長生きや健康などに関心があるのは中央貴族や上流武士などごくごく限られた階級くらいで、そこいらの一般庶民なんぞは生存すること、日々食べることだけで精いっぱいだったはずだ。多産多死が当たり前だった。近代に入って世の中がやっと少しずつ安定した江戸時代になって初めて、健康や長生きというキーワードが大衆的規模で意識されるようになった。町人が中産階級として台頭し、幕府より奢偧がたびたび禁止されるほど庶民の生活水準が上がった時期だ(元禄時代はちょうどそのころ)。この冊子が世に出たのがそんな時期に当たるわけで、時機を得たものだったようだ。

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397の処方の一つに、秋の七草のひとつである葛の項がある。先日のブログでは粉砕駆除対象の憎たらしい植物であり、見向きもしないものだったが。

いまがちょうどその花の時期。繁殖力がとても強く、樹々に絡まって一面を覆いつくすほどに広がる植物で、厄介者の典型だ。丸い大きな葉っぱで、弦はどんどん伸びる。電柱から電線に絡まり垂れさがったりしている姿もみなさんよく目にするだろう。とくに廃屋などに絡まっていたりするといっそう侘しさが募る。この近辺でもいたるところでやたらと目につく光景だ。薬として葛根湯は知っていてお世話になることもあるが、このすざましい姿を日常的にみる田舎住みの我々には、葛には良いイメージはない。やはり駆除対象である。

「救民妙薬」の目録130のうち、10番目の項にこの葛があって「酒毒には 葛の花 かげぼし 粉にして ゆにて用いてよし」とある。つまり陰干しした花を粉にして飲むと酒毒(二日酔い)に効く、と。これは比較的問題ない処方の感じがする。心あるチャレンジャーはお試しあれ。

※ミツバチ愛好家の一人として、397の中にハチミツが記載されていないのが残念であるとともに、不思議で仕方ない。ハチミツは当時から知られていたであろうに。怪しげな妙薬よりずっと受け入れやすかろうと思うのだが。

余談ながら113番目には「無病延命の術」なるものも載っている。詳細は記さないので、ご興味ある方は検索してみて、実践されてはいかが? なにしろ光圀公推奨の術であるからにして・・。

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