2013年11月10日日曜日

食材偽装事件に思う

先日の読売新聞朝刊のコラム「編集手帳」に、西洋ジョークが紹介されていた。
読まれた方も多かろう。

「ボーイ君、これは仔牛の肉かね?それとも、普通の牛肉かね?」
「区別がおつきになりませんか?」
「うん、つかないなあ」
「それなら、どっちだっていいじゃありませんか」

         

さまざまな解釈が可能だ。
小生は、仔牛か普通の牛肉かも自分では判断できない食事客への皮肉と読んだ。
しかし、家人はもっと突っ込んで、仔牛か普通の牛肉かは大した問題ではなく、どんなであっても最高に美味しい料理を提供できる料理人の矜持、とも解せるではないかと言う。
そう言われれば確かにそうだ。

このジョークが紹介されたのはこのところの「食材偽装」に関してだ。
人を欺くのは許されざる行為であり、あってはならぬことだ。
続々と有名ホテル・デパートでの公表と謝罪が続き、底なし状態だ。

今回の問題のことの本質は、このジョークの最初の解釈のような提供者側の意識の問題、すなわち、どうせわかるまいという不遜な思い上がりが当たり前になっていたのだろうと思う。
特に調理現場を預かる立場の人間にかかる思い上がりはあったかもしれない。あるいは利益を優先する経営側から(調理現場の声を押し切る形で)強い指示があったのかも知れぬ。
職人集団の厨房内は独自性が強いのだろうし、外部のチェック機能も働き難い。上下関係も厳しいのだろう、若手が疑問を抱いても発言できないに違いない。

今後、調査結果が公表されるのだろうが、こと信用に関わる問題だけにこれで終わりという解決が難しく、トラブル・クレーム対応に膨大な体力を費やすことは想像に難くない。間違いなく長期化する。
レストラン運営会社だけに留まらず親会社企業の信用に傷が付き、対応の巧拙によっては存続に関わることにもなるだろう。
あとの解釈のように料理人の矜恃があれば(不正を強要したりする)経営側に異も唱えられたのかもしれない(あくまで勝手な推測だが)。
偽らざる情報開示で、食材の仕入れ価格に応じた価格を提示すれば良いのである。高い材料なら高く、安かったら安く。高級店のステータスを維持するうえでは安いのはマイナスだからしないだろうが。
少なくとも高級ホテルのレストランで食事をしようとする人種は小生などと違って、このようなシチュエーションにおいては財布のヒモはユルユルではないか(これも勝手な、貧乏人の推測だが)。
それに加えて、ブランドや他人の評価(口コミ)に著しく弱い日本人である。
結局はそこにつけこんだ一連の事件、という構図だろう。

世の中全体のモラールの低下は勿論あるのだが、何でもかんでも利益最優先・効率最優先の風潮が幅をきかせるからこんなことに・・と思わぬこともない。日本人の倫理・道徳・正義が著しく劣化している。
小生など、細々とでも正直に、人に喜んでいただける確かなものを提供できたら満足なのだが。
まあ、なんだかんだと言っても、顔が見える関係にある生産者が作るものを直接手にいれられるのが消費者にとっては一番だ。
自分の畑で獲れた食材で作るけんちん汁が一番のご馳走だと信じて疑わない、浮世離れした田舎人・農業人の一人つぶやきである。

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