2025年6月19日木曜日

ことしも樹皮を剥いでいる

ある工房からの依頼でヤマザクラの樹皮を毎年集めている。もう10年近くなる。

ある特殊な用途にお使いのようである。国内産の物で一定レベル品質の樹皮を、安定して調達する必要があるとのことで、毎年作業してお届けしている。

樹木が水分を盛んに吸い上げて皮が剝がれやすくなっている梅雨の時分のタイミングを見計らって作業している。これ自体はとてもシンプルな作業ではあるのだが、ヤマザクラの樹皮なら何でもいいという訳ではなく、厳しい品質の要求条件があるのでそれを満たすための苦労がいくつもある。

ひと口に「ヤマザクラ」と言ってもいろんな種類があるのをご存じだろうか。この作業を始めてから知ったのだが、花の色も違えば咲く時期も微妙にずれがある。樹の植生形態(生え方・樹形)にも違いがある。当然にその樹皮の色目もザラザラ具合もみな違う。要はとても多様であり、樹皮が容易に、キレイに剥げる木の種類は実は数が少ないということを知った。近年やっと判別できて、量が一定数が確保できるようになってきた。

最大の苦労はその木を探すこと。そのような樹はそうそう生えているわけではないし、まして一度皮を剥いでしまうとその樹からは相当期間、皮は剥げない。再生は難しいようだ。そして剥ぎ方を誤って厚く(深いところまで)剥いてしまうと樹として大切な維管束部分も切り取ってしまうので枯れてしまうことになる。
なので広範囲に山中を歩き回り、条件に合う樹をいかに沢山見つけるかが最初のポイントになる。幹が細すぎるものは対象外だ。皮は一定の面積(つまりは幹回りが太いことが条件となる)が要求されている。この目星をつける探索作業は冬の期間にやっている。

そして今の時期になり、脚立・袋などの作業用道具を抱えて藪に覆われた急斜面を歩き回るのである。体力がいる。暑い。けっこうつらい。

一枚のまとまった面積の皮が欲しいので、途中で切れてしまわないように、作業は集中力と忍耐、繊細さが要求される。


迷子になりそうなくらい藪だらけだ
作業中に小さな虫が目をめがけて飛んでくるので実に鬱陶しい

切り取られた樹皮は乾燥させる作業に入る。そのまま放置するとクルクルと丸まって固まってしまうので、水分がある生のうちに、平らになるように段ボールに挟んで重しを乗せ、乾かす。約二月間は置いておく。そうして十分に乾燥させた樹皮を成型してやっとお渡しできる品物となる。

ざっとこんな感じになる。この時期にしかできない仕事だ。大変な作業でも、これをどうしても必要とする人、喜んでくれる人がいるのであり、とてもやりがいがある。

自家所有の広大な山林があるからこそできる。面白くてやめられないでいる。ここ里山は宝(金銭的な価値だけではなく、精神の充足感・充実感を提供してくれているもの)に満ちている気がしてならない。気が付かないでいるのがもったいない。

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